2008年6月19日 投稿者: アドベンチャースポーツマガジン編集部
4月6日に行なわれた「青梅高水山トレイルラン」35kmの部で、2位以下に8分以上の大差をつけて圧勝し、昨年大会に続く連覇を達成した奥宮俊祐さん。
さらに6月1日の「八海山登山マラソン」にも優勝し、今シーズンはまさに絶好調が続いている。
しかし、日本山岳耐久レース(通称ハセツネCUP)では、05年3位、07年2位と、あと一歩のところで優勝を逃している。
「今年こそは絶対優勝を」と誓っている奥宮さんに、ロングインタビューを行なった。
おくのみや・しゅんすけ
28歳。大宮自衛隊第32普通科連隊所属の三等陸曹。トレイルレースは、05年の「日本山岳耐久レース(長谷川恒男カップ、通称ハセツネ)」が初出場。このときは月夜見の手前までトップだったが、鏑木 毅、横山峰弘とデッドヒートのうえ、転倒して手指を骨折、3位に終わった。07年大会では今熊神社から大岳山荘付近までトップを独走するも、相馬 剛に抜かれ2位に終わる。パン職人から自衛官に転職するというめずらしい経歴をもつ。家庭では子ども2人のよきお父さんでもある。
奥宮さんのブログ【トレイルランは楽しい】
取材=宮崎英樹(ASM編集部)
写真=宮崎英樹・加多駄智子(ASM編集部)、高橋庄太郎
●奥宮さんは自衛官なんですね。
私が所属している大宮自衛隊第32普通科連隊は、射撃・柔剣道・持続走の3つを重視しているのですが、私は持続走の選抜チーム「持久走訓練隊」のメンバーです。チームとしては、8月に開催される「富士登山駅伝」の自衛隊の部で2位以内の入賞をめざしています。近年優勝を重ねている滝ヶ原自衛隊チームはほんとうに強いので、優勝はなかなか厳しいとは思いますが。
スタート前。優勝を宣言していただけあって、真剣な表情
※以降の写真はすべて、4月の「青梅高水山トレイルラン」で撮影
●これまでハセツネでは数々の名勝負を演じていますね。
2005年のハセツネ13回大会ですが、このときは終盤のデッドヒート中、大岳山の下りで転倒し、左手小指の付け根を骨折してしまいました。でも、転倒直後は尻の痛みのほうが強くて、左手で尻を触ったら、尻が陥没しているように感じたんです。次に右手で尻を触ってみると、陥没している様子がなかったので、おかしいなと思って、右手に持ったライトで左手を照らしてみたら、小指がありえない方向に曲がっていました。でも、痛みはそれほどなくてなんとか走れました。しかし、岩場でうっかり手をついたときはすごく痛みました。ペースはガクッと落ちましたが、なんとか順位を落とさず3位でゴールできました。
スタート。先頭集団が笑っているのは、スタート合図の失敗があまりにおかしかったため
おととし(06年)は自衛隊の昇進試験をめざしていて、実習のために部隊を離れていたためぜんぜん走れずに、レースにも出場しませんでした。
07年になって、1月からようやく走れる状態になりました。4月の青梅高水山トレイルランが復帰戦だったんです(優勝)。ここから10月のハセツネまでに仕上げる必要があったし、また、走れる喜びが大きくてどんどん走ってしまったんです。
青梅高水山の2週間後に国体山岳競技の埼玉県予選に出場し、優勝しました。その後、8月には「富士登山駅伝」と「おんたけスカイレース」に出ました。この頃から少しずつ体調の異変を感じていました。疲労が抜けない感じ。走りすぎだったんでしょうね。
10月第1週は秋田県の森吉山で国体の山岳競技でした。これは、1チーム2名で、それぞれが17kgの荷物を担ぎ、距離7.1km、標高差601mのコースを登り、2名の合計タイムで競うものです。埼玉県チームは、元マラソンランナーの早田俊幸さんと僕が代表で、7月に行なわれたプレ大会では総合優勝していたし、もちろん本大会でも優勝をめざしていました。ところが、僕が19位になり、チーム総合でも6位に終わりました。悔しいのと、期待してくれたチームや監督に申し訳ない気持ちとでいっぱいでした。じつは国体の前から、左足のハムストリングを痛めていたんです。
そんな体調のなか、10月25~26日のハセツネに出場したわけですが、前半はオーバーペースを感じながらもトップを独走。スタミナが強い鏑木(毅)さんが追い上げてくると思っていたので、前半のうちに差をつけて逃げ切ろうと思っていました。じつは鏑木さんは第1関門でリタイアしていたのですが、僕はゴールするまでそのことを知りませんでした。
自分としては、三頭山以降で自分のペースが落ちていることはわかっていました。相馬(剛)さんのことはまったくのノーマークでしたし、途中で並ばれたあとも、絶対に自分が優勝してやる、と思っていましたが、途中で力が入らなくなり、差を広げられてしまって、結果的に今回も優勝を逃してしまいました。
レース終盤、トップを独走する
●ふだんのトレーニングについて教えてください。
1回3~4時間、週に1~2回は長い距離を走るようにしています。
トラックではおもにインターバルやペース走をやっています。大宮駐屯地の中にトラックがあるんです。筋トレとランニングを組み合わせたサーキットトレーニングが中心ですね。筋トレは、とくに体幹の強化のために取り組んでいます。
トレイルランのトレーニングとしては、やはり山を長く走るのがいちばんですね。奥武蔵の、ときがわ町の山によく行きます。西平~七重~堂平山の「ときがわトレッキングコース」や、「奥武蔵グリーンライン」あたりがホームグラウンドですね。
登りの足取りも快調
●青梅高水山トレイルラン(4月6日)の35kmの部は圧勝でしたね。
去年も優勝しましたし、今年もブログで事前に宣言していたとおり「絶対に優勝する」という気持ちで臨みました。ライバルもたくさんいましたが、優勝できてよかったです。
青梅高水のコースの特徴は、ほぼ往復コースだという点ですね。往復コースの利点は、すれ違う選手に応援していただいたり、ときにはハイタッチしたりできるところですね。でも欠点もあって、すれ違う選手とぶつかりそうになったり、よけようと無理な動きをして足が吊ってしまったり(笑)。実際、何人かの方にはぶつかってしまいました。申し訳ないと思っています。
2位以下に大差をつけてゴール
●そして、6月1日の八海山登山マラソンも優勝しました。
このレースも強敵が何人かいたので、どうかなと思いましたが、なんとか優勝できてほっとしました。
●今年の目標は、もちろんハセツネ優勝ですか?
そのとおりです。今年の最大の個人目標は、ハセツネに絶対に勝つことです。タイムは必ず8時間を切ります。でも、優勝かタイムかどちらかひとつと言われれば、タイムより優勝を重視しますけど。
今年は昨年とは比較にならないくらい体調がよくて、去年の自分とは明らかに違います。
ハセツネの試走回数ですが、13回大会では2回、15回大会でも3~4回くらいでした。今年はすでに2回行きました。1回目は第1関門(浅間峠)からゴールまで、2回目はスタートから第2関門(月夜見第2駐車場)までです。今年はもっと数多く試走したいですね。
今年、もし競り合うレース展開になったら、第2関門以降、あのへんが自分にとっての鬼門ですね。第13回大会では月夜見の手前で横山さんに抜かれ、その後鏑木さんにも抜かれたし。ただ、このときは試走もあまりしていなかったし、夜間にトレイルを走った経験もゼロでした。優勝するつもりもなかったですし。
でも去年は「絶対に優勝する」「優勝したい気持ちは誰よりも強い」、そういう気持ちで臨んだレースだっただけに、終盤でノーマークの相馬選手に並ばれ、最後には抜かれたのはショックでしたね。
トレイルランをやっていて、ハセツネで優勝するということは、ひとつの資格というか、区切りになると思っています。そうすれば、鏑木さんのように世界のレースに出て行くきっかけにもできると思っています。
ゴール後、鏑木毅選手と言葉を交わす
●去年のハセツネでは、大宮自衛隊チーム(奥宮、小河内、門倉の3選手)のヘアスタイルが話題になりましたが。
あれですか、ハハハ......。小河内(吉哉。昨年のハセツネ3位)がいつもああいうヘアスタイルをしているんですよ。小河内は「山岳カット」って呼んでるんですけど、3人そろって同じ髪型だと目立っておもしろいかなー、と思って、散髪の上手な仲間に刈ってもらったんです。でも、僕自身はかなり恥ずかしかったですね。
今年ですか? 今年はどうしましょうか。まだ決めてませんけど。
35kmの部、15kmの部とも、上位を占めた大宮自衛隊チーム。左から小河内吉哉、門倉輝明、奥宮、岡田 翔、斉藤和秀
●トレイルランに取り組んでいることに対する奥様の反応は?
前の職場(パン職人)で出会ったんですよ。彼女は体を動かすことは好きですが、ランニングや登山には興味がないんです。でも、応援はしてくれています。「今度『山と溪谷』に出るよ」と話しても、「それ何?」という返事しか返ってこないのはつらいですが(笑)。
●これまで視力0.1の裸眼で走っていたというのは本当ですか?
ほんとですよ。無謀ですよね(笑)。今はレーシックの手術を受けるための準備中です。視力がよくなれば、下りはもっと速く走れるだろうと期待しています。
●トレイルランの魅力とは?
自然のなかを走る爽快感、山を走る前のワクワク感、自然と一体になる感じが一番の魅力です。とくに一人で走っているときは、風になったような、自然に溶け込んでいるような気持ちになります。そうなると、疲れや時間の経過を感じないんです。いつの間にか何時間もたっていたりして。また、景色や動植物を見るのも魅力ですね。
●トレイルランと登山(ハイキング)の共通点は?
共通点ばかりだと思います。走るか歩くか、どちらの割合が多いかの違いだけだと思います。
●登山の経験はありますか?
父親が山好きで、夏休みに連れて行ってもらっていました。小学校の上級生の頃には、親よりも速く山頂に立っていました。そういえば、小学6年生のとき、山小屋で父親をおぶって力自慢をしていたら、山小屋の窓ガラスを割るという失敗をしました。たしか、白馬岳が見渡せる山小屋だったと思います。
親に連れられて登山をすることで、山の偉大さや大切さ、そして怖さを学んだと思います。その経験があったからこそ、違和感なくトレイルランを始めることができたのだと思います。
●好きな山、走ってみたい山はありますか?
走ってみたい山は、ありすぎて答えられません。すべての山ですかね? 機会があれば日本百名山を走りたいです。
特にひとつといえば、谷川岳ですね。上の子(3歳の女の子)と途中まで登ったけど引き返してしまったので、早く子どもといっしょに頂上に立ってみたいです。
●山の花に興味をお持ちのようですが?
花は好きです。親が山のお花畑を見るために登山をしていたので、その影響だと思います。でも、花の名前はよく知らないんです。勉強が必要ですね。
ハセツネのコースにはたくさんの花が咲いているので、試走のときはデジカメで撮影しながら走っています。先日はカタクリの花が咲いていました。カタクリは咲くまでに7年もかかるそうで、自然の強さ、弱さ、大切さを感じました。この自然がいつまでも残ってほしいです。
少し話がズレますが、今、森林インストラクターの勉強をしています。資格を取ることで自然を少しでも守れればと思っています。勉強ははかどってませんが......、がんばります!
体調がよく、トレーニングも順調に進んでいるという奥宮さん。ハセツネの注目度が急激に上がり、優勝を狙う選手も多数いるため優勝争いは激戦になるだろうが、ぜひがんばってほしい<ASM>。