みなさん、はじめまして!
このコーナーは、東京都山岳連盟主催の「第16回 日本山岳耐久レース『安全対策講習会』」(全6回開催)を体験取材して、どのメディアよりも最速(!)でレポートするものです。
今年初めて日本山岳耐久レース(通称ハセツネ)に挑戦したい方、もっと記録を伸ばしたい方など、トレイルランニングをこよなく愛するすべての方に、きっと役に立つ充実した内容でレポートをお届けしたいと思いますので、大会前月の9月末までおつき合いのほど、どうぞよろしくお願いいたします。
体験取材をする私、田口裕子は、うさぎと亀で例えるならまさに亀タイプ。スピード命のトレイルランナーとはほど遠い、ゆっくりペースの臆病者です。講習会に参加している皆さんを後ろから追いかけていくのが精一杯ですが、アドスポWebのためにも頑張って走りますぞー。
それでは早速、『安全対策講習会』第1回(2008年4月26日開催)のレポートをお届けします。
田口裕子たぐち・ゆうこ
19歳より登山を始める。何をしてもあまり続かない性格だが、なぜか登山だけは今現在までずーっと続けられている唯一の趣味。体型的にも性格的にも競技には向かないが、ハセツネは完走経験あり。何事も、人の3倍努力して、やっと人並み。運動神経がよく、練習しなくても上位に食い込める女性ランナーたちがうらやましい。しかし最近やっと気づいた。「3倍の努力だから人並み。4倍努力すれば少しは上へ」と。
■主催:(社)東京都山岳連盟 日本山岳耐久レース委員会
■講師:主任講師 田中正人(日本山岳耐久レース初代チャンピオン)
■日程:2008年4月26日(土) JR武蔵五日市駅前 午前9時集合
今年で16回目を迎える日本山岳耐久レース(通称ハセツネ)。しかし残念なことに、昨年の第15回大会では死亡事故が起きてしまいました。
このような事故を未然に防ぐため、また万が一事故が起きてしまった場合にレース参加者自身がレスキューへの協力態勢がとれるようにと、この安全走行講習会が開催される運びとなりました。さらにはこれから先、トレイルランの指導者育成も目的とされています。
さてこの講習会ですが、応募者多数で、全6回分すべての応募が締め切られています。ハセツネに対する意欲と、トレイルランに対する関心の高さがうかがえますね。
みごと選ばれた第1回目の参加者は、総勢30名(うち女性は6名)でした。
なお、ハセツネ出場経験者の割合は約半分だそうです。
朝9時、JR武蔵五日市駅に集合後、日本山岳耐久レース現地事務所である五日市龍山荘(合気道の道場です)へ移動。まずは主催者のあいさつから。
「トレイルランナーとしての基本的な知識を持って、さらにはそれをどんどん外へと広げていってほしい」(宮地由文実行委員長)
「トレイルランは登山ともロードとも違う、独特な面をもつスポーツです。トレイルランの特性を、皆さんと走りながら説明していきたい」(田中正人講師)
「お互いに助け合える体制や組織を作っていきたい」(橋本利治講師)
次に、田中講師から具体的な説明がありました。このお話の内容は、すでにトレイルランを経験されている方にも初心者の方にも、ぜひ参考にしていただきたいと思い、ここに詳しく書かせていただきます。
ポイント1) トレイルランニングとは?
①ロードランニングとの違い
トレイルにはアップダウンがあり、岩があったり木の根があったりと、ロードのランニングとは体の動きが基本的に違う。つまり体のいろいろな筋肉を使う。同じ筋肉ばかりを使い続けないので、長時間行動が可能となる。
「ロードなら10kmをコンスタントに走れるくらいの力をつけてから山に入ってほしいですね」
②「下り」に強いかどうか
トレイルランでの下りは、大腿四頭筋のダメージが相当大きい(正確には伸張性収縮と言うらしい)。レースとなれば、「下り」に対する対抗力があるかどうかが勝敗を決める。
上りで使う筋肉は筋トレでもつけられるが、この「下り」に対する力は実際に山を走らないとつかないというのが田中講師の結論。
皆さん、ジムのマシンで走るだけ(これは私のこと)ではハセツネにはダメなようです。
「日頃のトレーニングでも、下りを意識して走ることがポイントです。トレーニングの最後の下りは全速力で飛ばして、下山したとき、いい具合に足を仕上げる(全力を出し尽くしてもう力が残っていない状態)ようにしてください!」
③トレイルでのマナー
山ではハイカーを第一優先に。落石に注意し、登山道を外すなどしてトラブルを起こさないように。ハイカーと出会ったら、必ず減速してあいさつすること。
「すれ違う場合には、相手も早めにこちらに気づいてくれるのでそれほど問題はないのですが、追い越す場合は別です。たとえ5m手前で声をかけても相手を驚かせて不快な思いをさせることがあります。10m以上手前で声をかけるようにしましょう。または、熊鈴などをつけて自分の存在をアピールすることも大切です」
④危険性に対する危機管理
トレイルランは、軽装備による高速移動が可能なことがメリットである一方、万が一の場合、装備を持たないことが最悪の状況を招く危険もあるスポーツであることも心得るべき。
たとえ小雨が降っても、動き続けることで自ら発熱すれば、寒さを防ぐことができる。
つまりは、自然環境の中でどんな状況に陥っても、なんとか自力で安全地帯に下りるだけの、絶対的な体力と精神力をつけなければならない。
「自分の体調の変化に敏感になることも大切です。ハンガーノックや低体温症などは、経験してみるとわかります。みなさんもぜひ一度経験してみてください(笑)」。
※注=単独、または深い山中ではもちろんNG! 仲間が大勢いるとき、すぐに下山できる場所で。
ポイント2) トレイルランに適した服装と装備
①レイヤードシステム
服装でもっとも重要なのはレイヤードシステム(重ね着のこと)。ウェアは、ぬれても行動しているうちに乾く、最先端の高機能なものを選ぶ。
②シューズ
トップクラスの人が「この靴はいい」と言ったとしても、初心者にもいいかどうかは別。自分で判断するしかない。ソックスは、厚手のものだと靴の中でどうしても足がずれる動きをしてしまい、マメなどのトラブルにもつながる。薄手のほうがいい。
③バックパック
体へのフッィト感を重視して。晴れていても背中は汗で蒸れて濡れるので、水分を含みやすい厚めのパッドのものは適さない。
「防水に関しては、ザックカバーではなく、パックの中に大きなビニール袋を入れ、装備はすべてこのビニール袋の中に入れるようにしています」
④食料と水
水や食料はこまめにとることが大切。水はハイドレーションシステムがやはり有効。食料は食べやすい工夫をして、ウエストベルト部分についているポケットに入れる。そのためにもトレイルラン専用パックは有効。あるいは、バックパックとは別にウエストポーチを併用してもいい。
⑤その他、必携装備
ファーストエイドとして、38mm幅のテーピングテープ(非伸縮性のもの)を必ず1本持とう。絆創膏や包帯代わりにもなる。その前に、事前にテーピングで固定する練習も忘れずやっておこう。その他、ヘッドライトと携帯電話は必携。手袋は下りでケガを防ぐためにも有効なのでぜひ。
ポイント3) すべて記録をとろう
「今日は○○kmを、○○分で走った」など、記録をマメにとろう。
「行動途中、常に時間をチェックしながら、自分のペースを把握することが大切です」
以上、やや長くなってしまいましたが、田中講師の言葉を忠実に再現してみました。ここに書かれていることは、本当に重要だと私自身も思ったからです。
特に、「すべて記録をとろう」という言葉にはハッとしました。今まで記録をとっていなかった方、大丈夫。まだ間に合いますから。これからの練習にぜひ活かしてみてください。
さて、続いて実走練習です。
1回目の今回は、五日市から市道山(いちみち)まで。6回とも参加すれば、ハセツネの全コースをトレースすることになります。
今回のコース。龍山荘をスタートし、市道山までハセツネで使用されるコースを進んだ後、ヨメトリ坂を下って笹平まで(黒破線のコース)。地図をクリックすると拡大します
龍山荘から、実際のハセツネのコースをたどって、まずは今熊山まで走ります。
トレイルの入り口まではウォームアップの気持ちで
今熊神社まではロード⇒トレイル(1カ所目の渋滞地点)⇒変電所横⇒ロードと走り、今熊神社の急な石段を上がるところから、本格的にトレイル(登山道)に入ることになります。
※注 マップ中に「今熊神社」と書いてある地点は、今熊山の山頂にある神社を指しています。ここで言う今熊神社とは、水場マークのある右横の鳥居の位置、道路が終わってトレイルへ入る場所にある神社を指しています。
まずはこの石段で、田中講師による上り方の実演。効率的に無駄なく上るには、脚を上げようとするのでなく、骨盤から動かすように。
骨盤の使い方を極端な動きで実演
さらに急な上りでは、体を前傾させてみぞおちと膝の位置を合わせる。
そして、出したほうの膝の上に手をのせる。手を膝に乗せると、上半身の重さが膝に直接乗るので、太ももの筋力をセーブできます。
「この上り方を、一歩一歩、意識しながら上ってみましょう」
これが膝に両手をついて上るパワーセービング法だ
日本人には猫背が多い。猫背の人は骨盤が後ろに傾いているので、骨盤の位置を直すことも大切です。またガニマタの人も故障が起こりやすいので、脚をまっすぐ置くように心がけましょう。
●トレランに有効な「股関節スクワット」
ここで田中講師直伝のハセツネ必勝ストレッチを公開! じつはトレランにはお尻のストレッチが有効とのこと。通常のスクワットよりもお尻を突き出したポーズで、膝の位置を前に出さないようにお尻を下ろす。するとお尻の下の部分が気持ちいいほど伸びます。ぜひ試してみてくださいね。
武蔵五日市駅を見下ろせる今熊山展望台では、藤井謙昌講師が「奥多摩の自然」をレクチャー。地盤や断層などを観察して、地形の違いを広範囲で知るということを教えてもらいました。
ハセツネのコースの前半の山がなだらかで、後半(大岳山など)がゴツゴツしている理由など、わかりやすく解説していただきました
やや荒れたゆるい下りで、田中講師が手本を見せてくれた。異次元のスピードには驚くばかり。このスピードに少しでも追いつきたいものだが……
ここから入山(いりやま)峠までは、下りの実践練習も含めても35分で走り切り、なかなかのいいペースで走破。
というか、私にとっては過去のレース実績よりも速いペースなんですけど……。
しかし、「待って~」と言う暇もないほど、どんどん飛ばしていく参加者たち。正直、すごいです。
今熊山からしばらくは、快適なトレイルが続く。ここは爆走区間!
ある分岐点にて、突然の「ここはどこでしょう?」という質問に、いっせいに地図を広げる参加者のみなさん。わかります?
入山峠でいったん林道に出ると、通常ルートだとすぐに向かい側の階段を上がります。しかしこの階段、毎年決まって大渋滞ポイントになってしまうのです。
これは昨年のレース時の渋滞。階段の幅が狭いうえ急で、どうしてもここで詰まってしまっていた
そこで、入山峠の渋滞を解消するため、今年から新ルートが採用されることになりました。実走練習では早速、新ルートへ。
入山峠から、階段を上らず、右手の舗装された林道をしばらく下っていきます。小尾根を回り込むところの左手に登山道入り口がありました。ここからこの小尾根に取り付くわけですが……、アレッ、左下に、今走って下った林道がいつまでも見えている! あとで地図を見てわかったことですが、おそらく数百メートル単位で走行距離が伸びています!
こちらが新しい入り口(下のマップの②地点)。これで入山峠が原因の渋滞はかなり解消されそうだ
①が、林道が横切る入山峠。昨年まではここの階段を上って稜線を南下していたが、今年からは舗装された林道を②まで下り、そこから折り返すように尾根を上って稜線上の登山道へと合流する。かなーり遠回り
気になる下りの実践練習は、急な箇所ではすり足で、少し平らになったらブレーキをかけずに下るというものでした。「下りはガッと目を見開いて、気を引き締めて」と田中講師。急な下りではケガもしやすいので、緊張感を持って挑みましょう。
木の根だらけのいやらしい下り。いかにして下りを制するか? 下りで圧倒的な差がつくことを、田中講師の走りを見ていてつくづく思い知らされた
小さなピークを何度も登り、市道山に到着。ここから先のコースは次回の講習会で走ります。
今回はヨメトリ坂にルートをとり、笹平(ささだいら)へ下山します。
本日の実走練習の締めくくりは地図読み講習です。実際のハセツネでは道に迷わないように充分に対策がとられているし、多くの選手とともに走るので安心ですが、トレイルランナーたるもの、地図が読めて当たり前。
レース本番にはこのような標識が随所に立てられ、迷うことはないのだが……
ふだんはハセツネ標識はないので、試走の際には地図やコンパス、高度計、場合によってはGPSなども使って、現在位置を確認しながら進むわけです。
田中講師がすでに準備してくれていた地図とプレートコンパスで、現在位置を確認しながら進みます。そして迷いやすい場所で実際にコンパスをあてて確認作業をしました。「地図読みではプランニングが重要」と田中講師。
「迷いそうなところをあらかじめ予測しましょう」
オリエンテーリングやアドベンチャーレースで鍛えられた田中講師の地図読み能力はハンパではないのだ
笹平から龍山荘に戻り、今度はAEDの操作実習と心肺蘇生法の講習会です。
駅でよく見かけるAEDですが、ハセツネでも何台も準備しているそう。人工呼吸と胸骨圧迫(心臓マッサージ)の練習を、人形を使って実践。さらにはAEDの使い方も2人1組になり練習しました。これで参加者30人は、いざという時、胸骨圧迫、人工呼吸、AED操作を、とまどうことなくできるでしょう。
胸骨圧迫の練習。1分間に100回のペースで30回、胸が4、5cmほど沈むくらいに押す
人工呼吸の練習。顎を上げ、呼吸を確認して、呼吸をしていなければ人工呼吸を2回行なう。AEDには、感染の危険を防ぐため、空気の逆流を防ぐマウスピースが付いているのでそれを利用する
AEDのケースを開けると自動でアナウンスが始まる。その声にしたがって操作するだけ。慌てることはない
以上が第1回の講習内容でした。
次回は5月24日(土)、市道山から浅間(せんげん)峠までの実走と、「奥多摩の気候」や「テーピング」などを勉強する予定です。次回のレポートをお楽しみに~!!!
☆田中正人さんが主宰する「チームイーストウインド」オフィシャルサイトは
こちら
撮影=宮崎英樹(ASM編集部)
取材協力=(社)東京都山岳連盟