
世界遺産、オーストラリアのタスマニアを舞台に繰り広げられるアドベンチャーレース「マーク・ウェバー・ピュア・タスマニア・チャレンジ」。いよいよ連載も第3回を迎え、レースも佳境に! オーストラリア在住のフォト・ジャーナリスト近藤 学氏のレポート、ぜひご覧下さい。

↑クレイドル・マウンテン、ダブ湖周辺のトラックは、タスマニアの特徴的な3つの植生に囲まれている。日が多く当たる北向きにはユーカリの林。湿った南向きにはレインフォレスト。それ以外のエリアにはボタングラスの湿原が広がる
「マーク・ウェバー・ピュア・タスマニア・チャレンジ」特別ルポ
第3回
Text & Photo by Kondo Manabu
文・写真☆近藤 学
【近藤 学 Manabu Kondo】
オーストラリア、タスマニア州、ホバート在住。
フリーランス・フォトグラファー。
東京では「週刊ゴング」を中心としたプロレス、格闘技の写真掲載。
オーストラリアではロイター通信、AP通信、The Australian、The Age、The Mercury、The Examinerに写真を掲載する
Manabu.kondo@bigpond.com
【大会オフィシャルサイト】
「マーク・ウェバー・ピュア・タスマニア・チャレンジ」のオフィシャル・サイトは英語版で
http://www.markwebberchallenge.com
【タスマニア】
オーストラリア本土の南方海上に位置する島。島全体の60%以上が国立公園や世界遺産に指定を受けた原生地域となっている。面積は北海道の8割ほど。このコンパクトな島の中に荒々しくも美しい海、山、川が凝縮されている。さらに「一日に四季がある」といわれるほど変わりやすい天候はアドベンチャーレースの舞台として打ってつけのフィールドである。
【本連載バックナンバー】
第1回
http://www.adventure-sports-web.com/blog/archives/2007/01/2007.html
第2回
http://www.adventure-sports-web.com/blog/archives/2007/01/20072.html
Day Three 11月7日(火)クレイドル・マウンテン
スタート 8:00a.m.
レグ#1マウンテンバイク5km(クレイドル・マウンテン・シャトー(ホテル)〜 クレイドル・マウンテン・ヴィジター・センター)
レグ#2ウォーク/ラン7km(クレイドル・マウンテン・ヴィジター・センター〜 ダブ湖)
レグ#3カヤック4.5km(ダブ湖)
レグ#4ウォーク15km(ダブ湖 〜 クレイドル・マウンテン頂上)
レグ#5マウンテンバイク10km(ダブ湖 〜 クレイドル・マウンテン・シャトー(ホテル)
レグ#6マウンテンバイク30km(モンテズマ・フォールズ)

↑キャドベリー・チームを背後から見下ろすのはクレイドル・マウンテン。むきだしの粗粒玄武岩の柱状節理は太古の地質ゴンドワナ大陸からのものだ。10億年以上も前の悠久の時間が戦う選手たちを見守る
クレイドル・マウンテンーレイク・セントクレア・ナショナルパークは、タスマニアのシンボルともいうべき世界遺産エリアだ。3日目は、世界に名高い美しい景観を舞台に選手たちが戦いを繰り広げる。
日曜日、ロンセストンをスタートしてから3日目。すでに200kmという距離を足で、バイクで、そしてカヤックで駆け抜けている。足を引きずって歩く選手の姿を頻繁に見かけるようになってきた。

↑ダブ湖は4回の氷河期が残した賜物だ。周辺の岩肌をよく見ると、移動した氷河が残した爪痕を見つけられる
アドベンチャー・レースにかけては全選手の中でもっとも経験豊富なワールド・アイアンマン・チャンプのガイ・アンドリューズですら、コンディションを崩しはじめている。今回参加している多くのプロフェッショナルなアスリートは、普段から自分の限界を押し広げることに関しては慣れているはずだが、それが3日間休みなく続き、しかも自分たちで食事の支度をし、テントを張り、凍える寒さの中、寝袋にくるまって寝るとなると話はまったく別だ。プロもアマもみなが心中もがき苦しんでいること間違いないはずだ。
この日、最終レグはマウンテンバイク・トラックとして世界から高い評価を得ているモンテズマ・フォールズ(30km)だ。このレグを前に選手の中で一人だけ微笑みを浮かべている男がいた。このコースの世界記録保持者、オーストラリア・マウンテンバイク・クロスカントリー・チャンピオンのスィド・タバレイだ。



↑上=最初のクリークに選手たちは勢いよく突っ込むが、思いのほか角度がきつく、多くの選手がここでマウンテンバイクの洗礼を受けた。バランスを崩すオーストラリアF1レーサー、マーク・ウェバー(左)と、この後転倒するオーストラリアを代表する中距離ランナーのクレイグ・モットラン。中=予想通りマウンテンバイク・クロスカントリー・オーストラリア・チャンピオンのスィド・タバレイがトップで現れた。下=スィドに続くのはチームメイトのオーストラリア伝説のサイクリスト、ブレッド・エイトケンだ。ロード・レーサーの彼にとってはかなり勝手の違うライドだったはずだが、それでもやはり、早い。サイクリストの意地か?
「この数日間、タフな奴らに引っぱられるようにしてここまで来たけれど、ようやく僕の世界をご紹介する出番が廻ってきたわけさ」
約55分後、全身泥まみれのシィドが彼のチームであるオールスターズ・チームを引き連れて、予想通りトップでゴールを切った。
「今日のこのコースときたら、もう今までで一番最悪だったよ」
と誰よりもこのコースを知るスィドが言った。彼のチームメイトであるグレイグ・モットランいわく
「スィドの走りは確かに最高だったよ。でも、最初の小川に突っ込む前にそこがほとんど直角に近い下り坂だと教えておいてほしかったね。危なく泥だらけの地面にキスしてしまうとこだったよ」
スィドのチームメイトであるトライアスリートのクレイグ・ワルトンは、実際キスしてしまった男の一人だ。
「僕がマウンテンバイクについて今まで何も知らなかったんだと、あの泥だらけの水たまりに顔を突っ込んだとき初めて悟ったよ。でもね、もしロード用のバイクに乗っていたら、そんなことにならなかったさ」



↑このレグの後ほど、すべての選手たちの顔が笑いに満ちていたことはなかった。自分の顔がどんなに泥だらけか知らない彼らはチームメイトの顔を指差し笑い、口々のこう言った「こんな面白いマウンテンバイクのコース、今まで経験したことないよ!」
Day Four 11月8日(水)ストローン
スタート7:00a.m.
レグ#1マウンテンバイク6km(ストローン〜オーシャン・ビーチ)
レグ#2マウンテンバイク8km(オーシャン・ビーチ〜ヘルズ・ゲーツ)
レグ#3ウォーク15km(ケープ・ソレル・ロゲイン)
レグ#4マウンテンバイク5km(ヘルズ・ゲーツ〜スワン・ベイスン)
レグ#5カヤック5km(スワン・ベイスン〜ストローン)
レグ#6レール・ライド28km(レガッタ・ポイント〜クィーンズタウン)
4日目のストローンは典型的なタスマニア・ウェザーだった。午前中は強風と冷たい雨が吹きつけていたが、午後からは何ごともなかったかのような晴天だった。
オーシャン・ビーチでのバイクには多くの選手が泣かされたはずだ。ビーチの砂に半ば埋もれ、息絶えたカンガルーの死骸がこの日の試練を選手たちに予感させたかもしれない。
凍える寒さ、強風、雨、舞い上がる砂、重たいペダル。
緊急事態に備えて、ヘリコプターが常に選手の動向を見守る。


↑左=カンガルーの死骸。右=ビーチの砂嵐


↑左=マークのチームは波打ち際を選んだ。右=バイクを押すチーム

↑ビーチの上空は常にヘリコプターが旋回し、選手の安全を確保する。選手の一人は言った「このビーチではそれぞれの選手が持っている本質的かつ本能的な力が試された気がするよ」
ライディングの距離自体は決して長くはないのだが、なかなか前に進まない。波打ち際を走れば砂は比較的固く走りやすいのだが、強風に晒されるばかりか、巻き上げる砂でまともに目が開けられない。
少しでも状況を変えようと地図を凝視し、抜け道を模索する。ビーチより少しだけ内陸側にもう一本の道を発見したチームがあった。地図上では近道だし、防風林に囲まれているため、この強風と砂嵐は避けることができる。しかしそこはふかふかの深い砂が続くコースだ。バイクを押して進むしかない。そのままこのコースをバイクを押して進むチーム。一度はこのコースに入ったが、考え直して戻るチーム。最初のプラン通り波打ち際を進むチーム。この駆け引きが面白い。
結果的には波打ち際のコースの方がはるかに早かったようだ。
この日のハイライトはなんといっても、スペシャル・サプライズ・ステージとして設定されたウェスト・コースト・ウィルダーネス・レイルウェイだ。
ストローン〜クィーンズタウン間の圧倒的なレインフォレストの中を蒸気機関車で走る人気の観光用路線だ。この日は「マーク・ウェバー・ピュア・タスマニア・チャレンジ」のために一定時間路線を閉鎖した。

↑ウェスト・コースト・ウィルダーネス・レイルウェイを走る蒸気機関車。レストアはされているがまるで走るアンティークだ



↑これがスペシャル・トロッコ。誰も今まで乗っていた自分のバイクがこんな形で目の前に現れるとは予想していなかった。マウンテンバイク2台の後輪の駆動で走る。なかなか上手くできている。素敵なディスクブレーキ付きだ。ちなみに制作費は1台約30万円($3,500オーストラリア・ドル)だったそうだ
選手たちも何をするのかハッキリ知らされないまま、出発地点のレガッタ・ポイントに集まった。そこで公開されたのは、今回のためにエンジニアたちが腕によりをかけて作ったスペシャル・トロッコだ。誰もこんなモノを見たことがない。
選手からどよめきが起こり、そして笑い声がもれはじめた。彼らが先ほどまで乗っていたマウンテンバイク2台がトロッコに取りつけられ(2人乗り)、後輪の駆動でレールの上を走る仕組みになっている。サイクリストたちは興味津々だ。
しかし、スタートしてすぐに選手たちの笑いは消えた。トロッコ自体の重量がかなり重いにも関わらず、ギアは前の一段しか使えず、おまけにこの路線はアップダウンが多い。一人がトロッコに乗りブレーキ等の操作をし、もう一人がトロッコから降りて押しながら走るチームも現れた。

↑山深いこの路線を走る選手をとらえるには、路線に沿って流れる川をボートに乗ってねらうしかない。しかし、それでも彼らの姿をほんの一瞬しかとらえることが出来ない

↑オリエンテーリング・ワールド・チャンピオンのハニー・オーストン(右)は世界各国でさまざまな体験をしているが、このトロッコには驚きだった

この美しい路線を自らの力で走ったことのある人は、そう多くないはずだ。そう言う意味では、今回参加した選手たちはみなとても好運だ

次回は最終回です。お楽しみに!
It will continue next time.Next will be the final times.