2007年1月 9日 投稿者: アドベンチャースポーツマガジン編集部

2007年新年特別連載としてお届けしてきた「マーク・ウェバー・ピュア・タスマニア・チャレンジ」。世界遺産であるオーストラリアのタスマニアを舞台に繰り広げられるアドベンチャーレースである本大会を、オーストラリア在住のフォト・ジャーナリスト近藤 学氏がレポートする。いよいよ最終回! 優勝チームのインタビューには日本代表チーム「イーストウインド」へのコメントもある!
トップ写真=シーカヤックからスタート。波間を縫って選手たちはペパーミント・ベイからブルーニー・アイランドをめざす
「マーク・ウェバー・ピュア・タスマニア・チャレンジ」特別ルポ
最終回
Text & Photo by Kondo Manabu
文・写真☆近藤 学
【近藤 学 Manabu Kondo】
オーストラリア、タスマニア州、ホバート在住。
フリーランス・フォトグラファー。
東京では「週刊ゴング」を中心としたプロレス、格闘技の写真掲載。
オーストラリアではロイター通信、AP通信、The Australian、The Age、The Mercury、The Examinerに写真を掲載する。ここ最近は、アウトドアスポーツや環境問題をテーマとした取材活動も精力的に行なっている
Manabu.kondo@bigpond.com
【大会オフィシャルサイト】
「マーク・ウェバー・ピュア・タスマニア・チャレンジ」のオフィシャル・サイトは英語版で
http://www.markwebberchallenge.com
【タスマニア】
オーストラリア本土の南方海上に位置する島。島全体の60%以上が国立公園や世界遺産に指定を受けた原生地域となっている。面積は北海道の8割ほど。このコンパクトな島の中に荒々しくも美しい海、山、川が凝縮されている。さらに「一日に四季がある」といわれるほど変わりやすい天候はアドベンチャーレースの舞台として打ってつけのフィールドである。
【本連載バックナンバー】
第1回
http://www.adventure-sports-web.com/blog/archives/2007/01/2007.html
第2回
http://www.adventure-sports-web.com/blog/archives/2007/01/20072.html
第3回
http://www.adventure-sports-web.com/blog/archives/2007/01/2007.html
Day Five 11月9日(木)ブルーニー・アイランド
スタート12:00p.m.
レグ#1カヤック10km(ゴードン〜ルナワナ)
れぐ#2マウンテンバイク20km(ルナワナ〜ライトハウス・ジェティー・ビーチ)
レグ#3ウォーク28km(ラビラディエア・ペニンシュラ〜クラウディ・ベイ)
レグ#4マウンテンバイク25km(クラウディ・ベイ〜ネック・ビーチ)
レグ#5ウォーク7km(ネック・ビーチ〜ポーバス・ヘッド・ビーチ)
レグ#6カヤック13km(ポーバス・ヘッド・ビーチ〜ペバーミント・ベイ)
この日は、タスマニアの北西から南部の島ブルーニー・アイランドへの移動から始まった。久々の車での長距離移動なので、マイクロバスの中で爆睡している選手もいたに違いない。
ブルーニー・アイランドは、タスマニアの州都ホバートから南へ40km。タスマニアで4番目に大きなこの島は約50kmの長さしかないが、その内部は驚きに満ちあふれている。牧歌的風景の中にたたずむ田舎町と厳しい自然にさらされたコーストライン。穏やかなビーチと灯台の下でうねる波のサーファーズスポット。農家があればかつてのアザラシ狩り漁師やクジラ狩り漁師の生活の痕跡も見ることができる。

↑ジェームス・クラックネル(右)が圧倒的な早さを見せつける
午後からの最初のレグはさわやかな青空の下、シーカヤックで始まった。2人乗りのシーカヤック、4人一組のメンバーのうち2人が水の達人(漕艇競技オリンピックメダリスト、ジェームス・クラックネルとワイルド・ウォーター、アドベンチャー・レース・チャンピオン、マット・ディエル)であるマーク・ウェバー率いるピュア・タスマニア・チームはさすがに早い。うねる波間を縫って、他のチームをどんどん引き離していく。

↑女性チームのハイドロ・タスマニア。スタートから既に7時間以上経っているので、へとへとのはずなのだが・・・・・・

↑すでに疲労困憊だが今日はまだ先が長い
レース5日目にして選手たちの疲労もピークに達しているのだろう。ビーチを走るほどんどの男性選手の顔が苦痛にゆがんでいる。しかし、どういうわけか女性チームに限ってはレースが終盤に近づけば近づくほど明るくなっていく傾向がある。この日のハイライト、ナイト・カヤッキングでは顕著にそれが出た。あるオリンピックメダリストが後日こういった。
「昼からぶっ通しで飛ばし続けて、仕上げはあの忌々しい、暗闇の中でのカヤックだよ。ただでさえも凍えるほど寒いのに、身体はどんどん水浸しになるし、漕いでも、漕いでもちっとも先は見えないし、もうマジで泣きたくなったその時、後ろからさ、キャーキャー笑い声を立ててあの娘たちが俺たちプロのアスリートを抜かしていくんだ!!」

↑弱ったチームメイトを支えながら走る、チームRBS

↑走れども、走れども、砂浜は延々に続く
しかしすべて女性アスリートたちが陽気にナイト・カヤックをこなしたわけではなかった。オリエンテーリングのチャンピオン、ハニー・オーストンは低体温症にかかってしまったようだ。
「どんな競技だって強い精神力があれば乗り切れるんだってずっと信じてきたわ、あのナイト・カヤックの前までは。すごく、すごく寒かったの。でもガッツはまだ充分あったわ。ところが目の前がフワフワして、何度も意識を失いかけるのよ。本当に怖かった……」

↑陽気を装っていた女性チームだが、最終レグのゴールでは心身共にピークに達していたようだ

↑水面も空も、すべてが真っ暗な世界に黄色い船体だけが浮かび上がる
この日の最終レグ、ナイト・カヤックを終えたのはほとんどのチームが午後11時過ぎだった。夜の寒さのなか、身体を乾かし、食事を作り、一刻も早くテントにもぐり込まなければならない。明日は最終日だ。

Day Six 11月10日(金)ホバート・アーバン・チャレンジ
スタート9:00a.m. レスト・ポイント・ガジノ・ホテル
レグ#1
カヤック2km
ミステリー・レグ3km
ラン3km
マウンテンバイク10km
ウォーク8km
マウンテンバイク7km
ウォーク2.5km
ミステリー・レグ1km
フィニッシュ

↑マウント・ウェリントンを駆け抜ける

↑漕艇があるとは誰も予想していなかった。殆どの選手が思うように長いオールをコントロールできず、イライラしながらも笑い声を上げた
いよいよ最終日。
この日はホバートを見下ろすマウント・ウェリントンから商店街までホバートの市内をめまぐるしく飛び回らなくては行けない。トランジット、チェックポイントがいたる所にあるので、つまらないミスをしないように注意が必要だ。


↑左=市民とのふれあいがあった。右=スクーター、再び登場
この日は多くの観客との触れ合いがあった。連日メディアが彼らのことを取り上げていたので、手を振る人たちは状況をよく理解している。彼らが自分の限界と病気で苦しむ子供たちのために戦っていることも。街頭の募金箱も徐々に重くなる。
ホバートのランドマークであるさまざまなポイントを通過し、ついにゴール。最初にゴールしたチームは、オールスターズだった。つづいて、ピュア・タスマニア・チーム。総合での優勝チームは、マーク・ウェバー率いるピュア・タスマニア・チームだった。
メディアのインタビューに対してマークは
「とにかく、とてつもなくハードな毎日だったよ。肉体的にも精神的にも、すべての選手にとってね。でも、この間、僕らはタスマニアの最も壮大な部分を堪能できただけじゃなく、自分を制限するさまざまな障害を乗り越えることができた」
女性初のヨットの単独無寄港西回り世界一周を達成したイギリスのディー・カファリは、スピンヴォックス・チームを率いて今回このレースに挑戦した。
「私、挑戦というものはメンタル・ゲームだと信じているの。自分の頭の中さえコントロールできれば身体はついて来る。確かにこのレースはもの凄くハードだった。私たちのチームはケガ、病気に見舞われて、本当に最後までやり抜くことができるのか、という疑問が何度も持ち上がったの。でも、身体はぼろぼろでも、精神力が『できる』と言う声をハッキリと聞いたわ。だって、この苦しみは今回私たちがサポートしている病気の子供たちに比べればほんの一時的なものなのだから」
ワイルド・ウォーター、アドベンチャー・レース・チャンピオン、マット・ディエルはマーク・ウェバー・ピュア・タスマニア・チャレンジをこう振り返った。
「このレースの魅力をひと言で言うと『バラエティさ』だと思う。アドベンチャー・レースは長丁場の戦いだ。そこに淡々と代わり映えしない風景が続くと、精神的にかなり疲れる。今回僕らは世界遺産の中を駆け巡り、その信じられないような美しさを思う存分堪能した。それだけで充分に参加する価値のあるレースだ。
今回は幸運にも僕が参加したチームの優勝だった。アドベンチャー・レースでチームが勝つためのキーポイントはチームメイトが常に一緒にいることだと思う。バイクが速い者、走りの上手い者、カヤックを自在に操る者、レース期間中にメンバーの誰もがリーダーになるチャンスがある。それがアドベンチャー・レースの魅力だ。お互いに助け合う。今日は彼だが、明日は我が身かもしれない。心理的な動揺がレースを左右する。心理的にもチームメイトが一緒にいること、それが常にベストなんだ」
そして彼は日本のチーム「イーストウインド」についての印象をこう語った。
「山の歩きがとても強いチームだ。水が弱いという印象がある。すべてにおいて最高でなくてもいいので、お互いにリスペクトし教えあう関係を築くともっと強くなると思う」

↑オーストラリア最大の公共・民間所有の通信会社テルストラの男子チームは総合3位。プロのアスリートたちにひけを取らない健闘ぶりだった。こんなビジネスマンたちがオーストラリア経済を支えているとは、頼もしい限りだ

↑女性だけで結成されたキャドベリー・チームは総合5位とプロや男性を相手に信じられない力を見せた。強さの秘訣は底抜けの明るさだろう
他の参加者たちも多くの感想を残してくれた。
「いちばん辛かったことは何かって? 相棒のいびきさ。クタクタだっていうのに、寝れやしないんだ」
「みんな世界遺産の風景を堪能したっていうけど、僕は走っているあいだ中、自分のシューズばかり見つめていたよ」
「笑っているか、泣いているかの、どちらかしかなかったわ」
「テントの中のマットがね、薄いのよ。腕がしびれて何度も目が覚めたよ」
「もう夏だっているのに、どうして毎日こんなに寒いの? どうして雪やあられが降っちゃうの?」
「憧れのアスリートたちと毎日一緒なんだから、バイクや走りについてのテクニックをたくさん教えてもらおうと張り切っていたのだけど……、こういうのって教えられるものじゃないみたい。でも、ひとつ学んだのは彼らの集中力は並じゃないってことだよ」
「なにが驚きかって、あのビジネスマンのおじさんたちさ。俺たちプロのアスリートにしっかり食いついてくるんだ。あのパワー、どこから来るの? ちゃんと毎日仕事してるのかなぁ?」
「まあね、確かに僕はプロのアスリートだよ。でもサイクリストだからさ、長距離の走りだなんて……正直いって16歳以来やったことないのよ。ほかの奴らには言えなかったけどね」
「ウキョウ(片山右京)にも誘ったことがあるんだ。このレースに出ないかってね。『そんなこと、僕にはムリ、ムリ』って応えたけれど、彼は優秀な登山家でもあるんだ。きっとやり抜けるよ。来年は日本のアスリートたちもぜひ参加してほしいな。この感動を分ち合いたいよ」(マーク・ウェバー)


↑左=ゴール後、メディアの取材に応えるマーク。右=選手たちは清々しさにあふれていた


↑左=ディー・カファリ。右=マット・ディエル

↑自分に誓ったゴールを切ることができた。それで充分だった
各チームの結果は以下の通り
1. Pure Tasmania 28hrs18mins21
2. All Stars 29hrs09mins35
3. Telstra Men 29hrs18mins03
4. Royal Bank of Scotland 33hrs27mins59
5. Cadbury (all female) 33hrs57mins09
6.Foster’s (mixed) 34hrs04mins47
7. MIA 36hrs30mins13
8.Hydro Tasmania (all female) 37hrs13mins09
9.DWS 40hrs56mins05
10.Spinvox (all female) 41hrs06mins13
11.Telstra Women (all female) 41hrs27min47
12.SecureCorp 42hrs15mins31
【From ASM編集部】
2007新年特別連載、いかがでしたでしょうか! 世界遺産であるタスマニアを舞台に繰り広げられ壮大なアドベンチャーレース。1日完結型タイプですが、長丁場の本格的なレースにさまざまな人間模様が展開され、各選手のコメントからはアドベンチャーレースの魅力と厳しさが伝わってきました。また、大会のコンセプトや選手たちのさまざまな意識に感化されるものも多かったのではないでしょうか。
本連載は、オーストラリア在住のフォトジャーナリスト近藤 学氏による完全ボランティア・レポートです。この場を借りて、近藤氏に改めて御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
そして、本連載を最後まで読んでいただいた本Webサイト読者のみなさん、ありがとうございました。みなさんのご意見ご感想、近藤氏へのメッセージ、ぜひお待ちしております。
アドベンチャースポーツマガジン編集部拝
【最後にオマケ写真集!】以下をクリック
http://www.adventure-sports-web.com/blog/archives/2007/01/2007_2.html
この記事へのコメント (2件)
投稿者: h | 2007年1月17日 17:46
読ませて頂きました。
なんだかアドベンチャーレースしたことないですが
感動しました。
大自然の中で、自分を限界まで追いつめて
仲間と感動しあえるレースが素晴らしいと
思います。
そんな体験を分けて頂いたようで
読んで嬉しくなりました。
アドベンチャーレースは仕事上できませんが、
走ったり・登ったり・泳いだり・チャリ乗ったり
してみよ~と。
投稿者: 近藤 学 | 2007年1月23日 21:36
コメント、ありがとうございます。
アドベンチャー・レース初取材でしたが、
僕も選手たちと感動を共有する事ができました。
自然を相手にするスポーツって素晴らしいですよね。
感化され易い性格なので、取材後さっそくマウンテンバイクで
タスマニアのトラックにくり出しましたが、
2時間弱で降参しました。
見るのとやるのでは、やっぱり大違い。
彼らのタフさを再認識しました。