2006年10月11日 投稿者: アドベンチャースポーツマガジン編集部

心に秘めたそれぞれの闘志。2,000人を超える熱いランナーたちが、今年もまた奥多摩のトレイルを駆け抜けた。去る10月8(日)~9日(月)にかけ、国内最高峰のトレイルランニング・レース「日本山岳耐久レース(長谷川恒男CUP)」が開催された。
総エントリー数2,250名(応募者多数のため、ここで打ち切り)、出走者数2,004名。制限時間24時間、総距離71.5km、奥多摩主要峰全山を巡る過酷なレース「日本山岳耐久レース(長谷川恒男CUP)」。目の覚めるような晴天下、第14回大会が開催された。
10月8日(日)午後1時、色とりどりウエアに考え抜いたさまざまな装備を詰めたパックを背負った2,004名のトレイルランナーがスタートした。
注目選手は、コースレコーダーである昨年度の覇者鏑木 毅(コースレコード8時間14分09秒)、一昨年の覇者であり昨年の準優勝者横山峰弘、そして3年ぶりの参加となった国内トレイルランニング界のパイオニア、優勝回数2回・前コースレコーダーである石川弘樹の3選手。海外でも通用する力をもつ国内トレイルランナーの三傑と言っていいだろう。
さらに山の世界はもとより、さまざまなスポーツの世界で活躍する数々の国内トップ選手も多数エントリー。また、チームバスクのキム・ホーラック、ジャスパー・ハレカス、ポール・デウィットや韓国からの招待選手といった世界トップレベルの選手が海外から続々と参加し、国際色も豊かになった本大会は、まさに群雄割拠の時代へと突入。誰が優勝するのか、一瞬たりとも目を離せない長距離耐久レースとなった。
そして今大会の注目点は、8時間の壁。アップダウンが激しい総距離71.5kmという途方もない長丁場のトレイルを8時間以内に走りきることは、技術や経験はもちろん、アスリートしての高い能力を要求される。スピード時代がさらに加速し、8時間の壁が果たして破られるのか。優勝者の行方とともに最大の注目点でもあった。
また、優勝回数3回を誇り、未公認ならが24時間ランの世界新記録をこのほど出したばかりの櫻井教美が女子のコースレコードをどこまで延ばすのか。参加者層の拡大によりダークホースが現われるのか……。客観的には焦点があまりある大会でもあった。反面、選手にかかるプレッシャーも最高域に達していたのではないだろうか。
3年ぶりの参戦となった石川弘樹。過去2連覇をしている唯一のランナーでもある
入山峠手前のトレイル。続々とランナーが駆け抜けていく
男子顔負けの走りを見せた櫻井教美は、結果、自分の持つコースレコードを約10分も短縮した
スタートから約30分後、快調に飛ばすふたりの選手が予備関門の入山峠を駆け抜けた。韓国の沁 在徳と僅差で後を追う石川弘樹である。ここ数年、海外のビッグレースに専念し、蓄積された疲労が心配されていた石川の足取りには、予想を上回る軽快さがあった。数分遅れで鏑木、横山を含めた5、6人ほどの後続集団が通過。まだまだレースの行方は見えない。
第1関門、トップは変らず沁 在徳。約5分差で石川が追う。態勢は変らない。ペースが速い。ゆうに8時間を切るペースだった。だが、ふたりはともに微塵の疲れも感じさせない走りをしていた。この時点で後続との差は約10分。
「体調はとてもよく、自分のペースで走りました。後続が離れていくのがむしろ不思議でした。自分のコンディションには何の問題もなく、後半のレース展開を考えながら楽しんでいました」
レース後、そう語った石川だが、この後、レースの継続を断念する。約34km地点で倒木に左膝を強打したことによる無念のリタイアであった。
「これも実力です」
無理をすれば走れたのかもしれない。体調もよく快調に飛ばす石川の走りは、見ている側にも優勝のふた文字を大きく予感させるものがあった。けして無理をした走りではなく、世界の過酷なレースで鍛えられ進化した石川の走りが、今も目に焼きついている。それだけに悔しい。本人がいちばん辛いのは分かっている。だが、これまでトレイルランニングの普及活動を精力的にこなし、選手として使える時間が限られる中、世界的なトレイルランニング界の栄誉ある称号「ロッキー・マウンテン・スラム」(2004年度獲得)を獲得するなど、世界のトップレベルで活躍し続けた石川の姿勢と活動を思うと、より選手の心にオーバーラップする。
その一方、石川が世界の舞台で活躍する中、国内ではよりスピード時代が激化、石川のコースレコードを約10分上回る鏑木・横山の驚異的な記録が昨年飛び出すことになる。「日本山岳耐久レース」から2年間遠ざかっていた石川には、さまざまなプレッシャーを周囲からかけられていたに違いない。そんな中でエントリーをした姿勢と、残念ながらリタイアしたものの快走を続けた石川の走りに、最大限の敬意を表したい。
久しぶりの好天に恵まれた本大会。だが、選手にとっては暑すぎるコンディションでもあった
レースは続く。第2関門月夜見第2駐車場、42.09km地点。残り約30km。午後5時36分22秒、昨年のトップ通過タイムを約14分上回る驚異的速さで韓国の沁 在徳が姿を現した。疲れは見えない。給水規定1.5リットルのうち、1リットルほどの容量のボトルに水を満たし、残りはその場で飲み干した。所要時間は約3分。沁 在徳が関門を出た約16分後、鏑木着。

「給水なし。トップと何分差?」
「実質16分!」
走りながら時間を確認し、OKサンキューと言うかのように右手を軽く挙げた鏑木は、昨年同様給水なしで関門を駆け抜け、疾風のように暗闇へと消えていった。
快晴、日中半袖姿でも暑いほどであったこの日、途中水場があるとはいえ給水なしで後半を走りきることは大きなギャンブルだった。パックの中に水は1滴もないはずだ。ギャンブルというよりもそれは明らかに危険な行為でもあった。普通に考えれば脱水症はまぬがれない。
「天気がよいこともあり、今回は給水をしようと考えていました。ただ関門直前で、このまま行こうと直感的に判断しました」
昨年もそうだったが、鏑木のレーサーとして研ぎ澄まされた感覚がそうさせたのであろう。前回と同様、倒れたら終わり。一発勝負にでたのである。
残り約30km、トップとの差は約16分。素人考えではあきらめの文字が浮かんでくる。だが、鏑木はここからスパートをかける。アップダウンの激しい山岳路約30kmを全速力で走りきろうというのだ。別世界、異常とまで思えるほど想像を絶する精神力。鏑木の意思は固く、事実その後みるみると差を縮め始める。
「途中、要所要所でトップとの差を確認できました。16分から11分、5分と少しずつ詰めることができ、絶対に抜く、と思い続け走りました。ただ、相手に気づかれてはいけない。そこがポイントでした」
最終の速報が大会本部に入ってきた。その差、約2分。勝負は分からなかった。第2関門3分差で横山を追いかけ、鏑木が抜いた昨年のゴールシーンが頭をよぎる。
だが、あと少し、わずか200mまで迫ったところで韓国の沁 在徳は鏑木の追走に気づきスパートをかけた。スタートから7時間52分24秒後、ひとり目のレーサーがフィニッシュゲートをくぐった。
韓国の沁 在徳だった。みごとな走りであった。そのわずか77秒後、鏑木がゴールする。鬼気迫る走りのすえ、フィニッシュゲートの先で倒れこむ。完全に脱水症状であった。が、8時間の壁をふたりの選手が破った瞬間でもあった。
そして、8時間をきることはできなかったが3位で横山峰弘がフィニッシュ。例えようのない表情。昨年の悔しさを胸に、静かな闘志を秘めてレースに臨んだに違いない横山にとって、納得のいく結果でないことだけは間違いなかった。
その後、脱水症状から回復した鏑木が横山に歩み寄り、固く握手を交わす。昨年の激闘に続き、レース後のふたりの姿は今年もまた多くの人にエネルギーを与えたに違いない。
「タイムはどうでもよかったんです。ただ、どうしても勝ちたかった。それだけです」(鏑木)
「次も出ます」(横山)
その後、主催者の計らいでトップ3が横に並び撮影会が始まった。これまでの大会では考えられないほどのカメラマンが3人の前に陣取り、無数のフラッシュがたかれ続けた。いつまで続くのだろうと思えるほど長い時間だった。その時、終始厳しい面持ちを変えることのなかった横山の表情が忘れられない。勝負師の顔であった。

8時間の壁をみごと破り驚異的なタイムで優勝した韓国の沁 在徳。快心のガッツポーズだった

最後まで全力で走りきった鏑木も8時間の壁を打ち破った

ゴール後、横山峰弘は、しばらくの間、呆然と立ち尽くした・・・・・・

長谷川恒男CUPが海を渡った。だが、そのことよりも鏑木の驚異的な精神力と追い込み、そして横山の勝負に徹する姿勢、日本選手権ともいうべきレースとしての「日本山岳耐久レース」から受けた強いエネルギーだった。
そして、もうひとつ。約34km地点で負傷した石川の奇妙な行動を付記しておかなければならない。左膝を強打し、治療のためいち早く下山すべきところ、石川はその場を動かなかった。動けないわけではなかった。そして待つことおよそ8分。トレイルの奥から後続のランナーが現われる。鏑木である。
「鏑木さん! 韓国選手に必ず勝ってください」
そのひと言告げ、石川は負傷した足をひきずり下山し始めた。
「日本山岳耐久レース(長谷川恒男CUP)」は、まだまだ続いていく。続々と選手がフィニッシュゲートを通過していく。そして制限時間内の最終ランナーがゴールした数分後10月9日(月)午後1時、主催者の鳴らした合図とともに第14回大会の幕が閉ざされた。完走者数1,515名、完走率75.6%であった。
驚異的なコースレコードを打ち立てた韓国の沁 在徳選手、ほんとうにおめでとう。そして、エントリーした2,004名すべてのトレイルランナー、大会主催者、多くのボランティアスタッフ、奥多摩の自然とトレイルに敬意を表し、感謝したい。今年も素晴らしい大会をほんとうにありがとう。

*来る10月15日(日)、本レースの清掃登山が行なわれます。みなさん、こちらもぜひ参加しよう! また、大会等の詳細は→http://www.togakuren.com/
*第14回「日本山岳耐久レース(長谷川恒男CUP)」の詳細なレポートを、次号『アドベンチャースポーツマガジン』にて掲載する予定です。ぜひ、ご覧下さい。また、本大会の模様をレポートするオリジナル映像「ハセツネ・オリジナルDVD」を販売します。お申し込み方法等、詳しくは→ http://www.adventure-sports-web.com/blog/archives/2006/10/14cupdvd.html
をご覧下さい。
【リザルト】(上位100位)
1 3550 沁 在 徳 7:52:24 京城特別市山岳連盟 男 (大会新)
2 3562 鏑木 毅 7:53:41 THE NORTH 男 (大会新)
3 3547 横山 峰弘 8:17:23 THE NORTH 男
4 3670 渡邊 千春 8:32:55 USB証券会社 男
5 3118 大内 直樹 8:40:58 松本市役所RC 男
6 3537 木下 宏純 8:43:46 遡行同人蟷螂 男
7 1287 佐藤 浩 8:48:06 東京野歩路会 男
8 3196 相馬 剛 8:48:59 海上保安庁 男
9 1160 渡邊 哲也 9:00:35 男
10 3369 市岡 隆興 9:05:19 男
11 1307 伊東 努 9:07:55 八百武西柴店 男
12 1326 円井 基史 9:10:38 TamaOrient 男
13 3854 櫻井 教美 9:10:50 女 (女子大会新)
14 1108 樋山 邦治 9:14:48 ち~む野獣 男
15 3540 原 雅彦 9:15:15 男
16 1188 松永 紘明 9:17:53 男
17 3367 ジャスパー ハレカス 9:18:18 A&Fバスク 男
18 3282 藤木 真人 9:25:39 ERC山岳軍団 男
19 3164 柳下 大 9:26:25 TEAM阿閣梨 男
20 3669 藤田 安彦 9:36:16 稲毛ITC 男
21 3143 紺野 裕一 9:43:50 男
22 3560 佐藤 英人 9:45:30 男
23 4197 杉山 眞之 9:46:16 男
24 3447 太田 直秀 9:48:09 男
25 1323 望月 将悟 9:52:14 静岡消防 男
26 5011 相馬 宇民 9:52:41 ランベル 男
27 1172 西尾 信寛 9:54:27 男
28 4120 陰山 学 10:02:25 男
29 1345 久保木 智 10:09:22 習志野消防 男
30 3151 樋川 雄貴 10:11:49 雄早会 男
31 3489 渡辺 達也 10:14:24 OHマンダム 男
32 1145 小野 雅弘 10:15:01 横浜税関 男
33 1195 日比野 和基 10:18:03 メガロス田端 男
34 4397 古越 三幸 10:21:27 走乱武士サスケ 男
35 3145 桑田 耕匠 10:21:37 男
36 3075 神宮 浩之 10:21:56 神奈川臨海鉄道 男
37 3167 原田 敏峰 10:22:12 男
38 1139 井上 哲 10:23:07 男
39 3146 木下 紀男 10:25:49 武蔵野消防署 男
40 3508 キム ホーラック 10:27:52 A&Fバスク 女
41 4027 津田 信浩 10:29:37 ルネサス北伊丹 男
42 3401 大竹 弘之 10:39:46 チームドラゴン 男
43 5051 郷 秀憲 10:40:04 越生七福神TC 男
44 4423 束村 宏 10:41:47 とれいる三昧 男
45 4150 鈴木 基 10:43:10 男
46 3193 染谷 詔和 10:45:15 猛走会 男
47 3443 鹿島田 浩二 10:45:29 男
48 3545 御木 茂則 10:45:47 和田サイクル 男
49 3222 金 永 甲 10:47:16 京城特別市山岳連盟 男
50 3552 南宮 萬榮 10:47:17 京城特別市山岳連盟 男
51 1223 平出 和也 10:49:19 Team ICI 男
52 3063 高濱 康弘 10:52:05 ぶっつけ 男
53 3060 羽賀 祐二 10:53:18 ツカーズ 男
54 3076 奥 文法 10:56:34 関西ペイント 男
55 3208 安達 裕司 10:57:45 男
56 3505 佐藤 宏 10:57:57 一番星 男
57 3223 高橋 公成 11:03:57 足立区役所 男
58 4138 森端 良尚 11:04:25 男
59 3210 瀧地 秀明 11:05:57 関西ランネッツ 男
60 4316 梅村 亨 11:07:19 秩父広域森林組合 男
61 3833 船橋 緑 11:09:34 女
62 3187 牛窪 良光 11:09:40 ハンガーノック 男
63 4362 西川 雅明 11:09:53 四季山岳会 男
64 4407 千葉 俊雄 11:10:08 トヨタ田原RC 男
65 1354 山岡 孝一郎 11:10:26 宇都宮陸上教室 男
66 4285 久保田 篤 11:11:57 oh!マンダム 男
67 3553 大山 直人 11:12:03 オオヤマ電子 男
68 3446 山谷 良登 11:14:08 山岳会R&B 男
69 3140 鈴木 健治 11:16:53 チームりきまる 男
70 3557 甲斐 智樹 11:17:50 AF福岡 男
71 1328 寺田 満 11:18:14 アフロオールスターズ 男
72 3120 下山 学 11:18:39 ワイルドライフ 男
73 1173 里見 洋一 11:18:50 坂戸魂 男
74 4624 河端 美紀 11:18:57 なんちゃって部 女
75 3428 中嶋 武 11:20:01 男
76 1117 佐藤 嶺太 11:20:43 立命館大OLA 男
77 3298 石井 篤 11:21:31 朝日アドテック 男
78 3681 小松原 政彦 11:22:09 男
79 3568 ポール デウィット 11:23:43 A&Fバスク 男
80 1524 番場 洋子 11:23:49 (株)堀場製作所 女
81 4013 泉 直樹 11:27:14 ゆなゆな 男
82 1551 鈴木 博子 11:28:18 女
83 4258 永末 一朗 11:28:27 ファイザー(株) 男
84 5066 神蔵 啓充 11:29:14 町田走友会 男
85 4273 西山 俊輔 11:31:30 日野トラ連合 男
86 3535 井上 智司 11:32:23 (有)井上コピー社 男
87 4015 鈴木 健 11:35:24 社医学 男
88 1070 竹原 直矢 11:38:31 男
89 4616 松浦 真由美 11:39:35 白岡夜人走遊会 女
90 4022 白井 岳史 11:39:50 SCカバタ 男
91 4202 宍倉 章浩 11:39:53 男
92 5244 杉山 行信 11:40:01 NEC-七福神 男
93 3465 浅川 成彦 11:40:11 ハッピートレイ 男
94 3435 瀬戸 秀文 11:43:17 ベーグルワン 男
95 5166 名塚 達夫 11:43:30 法大二部山岳部OB会 男
96 1049 後藤 一郎 11:43:55 法政大学山岳部 男
97 4329 川崎 政春 11:47:45 越生七福神 男
98 1183 大河原 斉揚 11:48:05 気象庁 男
99 3276 長尾 和也 11:48:23 アジャリ 男
100 3382 山田 穣太郎 11:49:37 雀狼会 男